<日々の出来事> あるお昼時の会話

「実はね、1月下旬に予定されていたパキスタン旅行が中止になってしまって、プランBとして考えていた旧ユーゴ旅行をしようと思っているの。ウィーンあたりから鉄道で下っていくのも面白いかと思うんだけどどう思う?」

「う~ん、危険とは言わないけどお勧めしない。鉄道車両はボロいし、だいいち真冬のこの時期に行っても面白くないよ。特にクリスマスから1月中旬にかけては皆仕事しないから観光地もさびれた感じだし。君がどういう目的で旅行したいのかがわからないけど、行くならブダペストに入ってベオグラード、アテネくらいに滞在すればいいんじゃないかと思う。ルブリアーナはキレイだけど大して何もないし、サラエボも同様。スコピエもまあまあかな。クロアチアの海岸線がものすごくキレイでお勧めなんだけど、それは夏場の話だし…。そもそもどうして旧ユーゴ旅行をしたいわけ?」

「私の父が昔―といっても私が生まれる前だから大昔だけど―旧ユーゴで働いていたことがあって、小さい頃最初に出てきた外国の話が旧ユーゴの話だったから、そういうのもあって何か興味あるのよ。で、何注文する?ここは一応寿司も出しているけど韓国人が経営している店だから韓国料理のほうがおいしいと思う。だから今日は石焼ビビンバにする。」

「僕は日替わりランチにする。それとさー、今日寒いから日本酒注文したいんだけど、いいかな?君が飲めるんだったら注文したいんだけど。」

(うっ、すきっ腹にはこたえるよ…)という苦い表情をした私を見て笑ってるし。それに私がほとんど全部飲まされた。あまり飲めないんだったらそう言ってよ!

「普段何食べてるの?」

「魚が多いかな。普通のセルビア料理はあまり好きじゃない。」

「普通のセルビア料理って何?」

「赤身の肉が多い。肉があまり好きじゃなくて。外食する時メニューに魚料理があれば魚を食べるかな。」

しばらくして食べものが運ばれてきたのですが、私がビビンバを5分くらいかけて丹念に(ある意味ダラダラと)混ぜている間、彼は箸をつけずずっと待っていました。アメリカ人だったら黙って、あるいは「食べるね」とか言って食べ出すところだけど、意外と行儀いいね…。それはそうと、付いてきたわさびを全部醤油の入った皿に入れているではないか!醤油が黒から茶色に変色してるってば。案の定握り寿司をそこにつけて食べて辛そうな顔してるし。何かカワイイ。

「そんなにわさび入れたら辛いってば。」

「そうそう、昔僕がハワイで大学に通っていたとき、お父さんが家に遊びにきたんだけど、その時バスルームにある歯磨きをわさびのチューブにすり替えて反応を見てみたことがあるんだ。その時住んでいた部屋は2階建てだったんだけど、僕が1階にいるとき2階のバスルームからお父さんが『歯磨きはどこにあるんだ?』と聞いてくるから『あ、そこにあるやつ。日本製で虫歯や歯周病に良く効くんだよ。』と返事したら約5秒後に大きな叫び声が家中に響きわたったんだ。普通こういうイタズラをしたときはものすごい剣幕で怒られていたんだけど、その時のお父さんはすっごく冷静で『いいか、お父さんももう年なんだ。今までみたいに怒鳴ったりはできないんだ。』と言われてしまったんだけどね。」

彼のお父さんは今はもういません。何が原因で亡くなられたのかは知りませんが、聞くに聞けません。18歳の時、旧ユーゴで戦争が始まり彼の両親が彼を何とかしてアメリカに送り出したという話を聞いているので、表向き爆笑しながらも、私は少し複雑な気持ちになっていました。同い年だということもあり、当時の私自身がもがく姿と重ね合わせてしまうものの、彼と比べたら自分の悩みなんて本当に小さかった、はず…。

「当時お父さんはもう年だったわけね。私の父は今60歳だけど。」

「え、若くない?」

「そうかなぁ。私の両親は若くで結婚したのかもね。確かに母は23歳の時に私を産んだから子供を持つのは当時でも割と早いほうだったかもしれない。」

「君の両親は時間を無駄にしてないね。」

「それって私が時間を無駄にしてきたって言ってるわけ?」

「いや、そうは言ってないけど…。」

うるせー。人のこと言えないだろうが!

「でもさぁ、何であなたの家にわさびがあったわけ?日本人である私の家にだってわさび置いてないのに。」

「時々家で寿司をつくっていたから。竹でできた巻くやつ(「巻きす」のこと)が家にあってそれで作っていたんだけど。」

そういえば、以前日本人と付き合っていたことがあるとか言っていたよね。

「ところでさぁ、何であなたは自分に与えられたと認識している(ように見える)役割にああも忠実でいられるのか、って疑問で仕方ないんだけど。リーダーシップの授業ではあえて場の雰囲気を乱すというか、授業で何でああもムカつくように聞こえることを言い続けられるのかと思って。私はいろいろ知っているから別にあなたが授業で何言っていても腹立たないけどね。正直言ってあなたの授業での発言がどこまでみんなの生産性向上に貢献しているかどうかは疑問なんだけど、周りに合わせて自分の役割を調整していく人が多い中あなたは最初から最後まで全然変わっていないよね。そういう人も珍しいと思う。」

「僕が嫌いなのは偽善なんだ。だから『あまり発言していない人のことを考えて』なんて言う人がいるとその人自身は発言時間とっているくせに…と言いたくなる。」

まぁまぁまぁまぁ…。いや、そうは言うけどさぁ、言い方気をつけないと下手したら刺されるよ。いや、たぶんもう刺されてるよ。私には授業中あなたに対して見えない剣がブスブスブスッと飛んでいっているのがわかるんだけど、それを感じて敢えて挑戦的なことを言い続けるの?あるいは単に鈍感なだけ?私にはまだ見極めがつかないよ。それにあなたは自分が発言してもいい雰囲気かなという見極めが少し足りないというか、もうちょっと外側から周りを見渡すようにしたほうがいいと思う。私は適当に割り引いて聞いているけどさ、皆が皆そうする訳じゃないし…。それにあなたの話し方は何というか特徴あるから、普通に会話していても演説調に聞こえるんだよね。でもあなたの純粋さは新鮮に映るかもしれない。純粋すぎて危なっかしいくらい。だから見ていて面白いんだけど。もっと楽しませて、と思うけど残念ながら明日で授業も終わりなんだよね。あーあ。

「ある日先生が、あなたを殴りたくなったことのある人手を挙げてとか言ってたとき、3分の2くらいの人が手を挙げていたじゃない(※注:そういう質問を120人近くいる学生全体に投げかける先生って一体…と思うでしょうが、そういう授業なのです…)。あなたは8割とか言ってたけど。私は『この人には何かある』と思って挙げなかったけど、あなたは自分自身の意思で発言しているわけ?それかあなたに与えられた役割があなたに発言をさせているわけ?だとしたらその役割って何だろう、と私なんかは思ってしまうんだけどね。」

「う~ん、なんともいえない…。僕が君に対してすごいと思うのは、日本人女性とかいう枠にとらわれず自分を出して発言しようとしていることなんだ。なかなかそれを目指していても、それを実行することは難しい。」

どうもありがとう…そうこうしているうちに彼の次の授業の時間も近づいてきた。私は授業ないけど他の人と会う予定がある。

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勘定は、私が自分の分を払おうとしたものの、結局彼が全部出していました。



※同級生の方へ: これはフィクションです。
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by coast_starlight | 2006-12-12 12:08 | 日々の出来事


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