2006年 11月 29日 ( 1 )

<授業のはなし> ハイフェッツ教授に会いに行く

やっと今日、リーダーシップの授業を担当されているハイフェッツ教授にお会いすることができました。先生は非常に多忙な方で1ヶ月前から予約を入れる必要がありました。その時の様子を一部再現してみたいと思います。

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「先生、私は他の日本人学生があまり授業で発言をしないでいること、またその人たちに発言するようにうまく働きかけることができていない自分に少しじれったさを感じているのです。私が知る限り、9月に授業が始まって以来一度も発言したことのない人もいます。先生にとって、日本人学生の態度というのはどう映るのかが気になるのですが。」

ちなみに、授業での発言は成績の30%を占めます。成績の問題は別としても、授業で発言しないと授業に参加している実感を持つのは難しいと思うので、タイミングおよび伝えたいメッセージを見極めた上で毎週1~2回は発言するようにしています。

「確かに過去の経験からも日本人を含め一部の文化圏から来た学生は、中には君のように発言する学生もいるが、学期中ほとんど発言しないか、あるいは全く発言しないで学期が終わってしまう人もいるね。でもそれは文化的な背景が違うこともあるし、その態度自体がある意味メッセージでもあるから、それ自体はacceptableだと思うよ。」

「そうなんですけど、だったらなぜこの授業をとっているの?と思いますし…もっとも、このことを私の問題として捉えるべきかどうか、あるいは単にその人たちの問題で私には関係ないと思うかという問題もありますが…」

「なぜ他の日本人学生があまり発言していないことが自分にとって問題だと思うわけ?」

「他の人が発言しないと私の『日本人代表度』が相対的に上がってしまうというか、日本人にもいろいろな人がいるわけですし…。あとは単に自分が『ケネディスクールの日本人学生』という所属に属していると思っているから、同じ所属の人が気になるのだと思います。」

「でも、それらのことは君が彼らに働きかけることの是非について悩む理由にはなっていないんじゃないの?」

「……。たぶん私が過去にアメリカに住んでいたことがあることが関係していると思います。」

「こっちで大学に行ったの?」

「いえ、日本の大学に行きました。アメリカで過ごしたのは5年・6年・9年・10年生(9年と10年は日本の中3と高1に相当)の4年間です。その後日本でインターナショナルスクールに通っていたので12年の教育の約半分は英語で受けています。アメリカ文化や英語に慣れているという面では、確かにずっと日本に住んでいた人たちよりもadvantageがあると思います。」

「確かにそれは大きいと思うね。皆話したがる授業の場で発言するのには有利かもしれない。」

「でも私はずっと日本で暮らしていた人たちを逆に羨ましく思うときもあります。私には高校の卒業証書がありません。日本では高校は義務教育ではないため、高2の夏に帰国することになった私が行けるところはほとんどなく(なくはなかったがその学校が――というより自分ではどうにもならない理由で振り回されて学校を選べないという状況が――私は嫌だった)、教育システムの違いなど様々な理由からインターナショナルスクールに入ったのですが、これは日本の法律では正式な学校とは認められず、当時そこを卒業しても大学受験資格は得られませんでした(今は得られるようですが)。従って最終的に日本の大学の理系に行くと決めた私は、結局この学校を中退し大学入学資格検定(大検)を受け大学を受験しました。これは基本的に自分で選んだことですが、家の事情も関係しています。大学を卒業するまではバイトをする際などに履歴書を出すのが嫌で、『早く大学卒から書けるようにならないかなー』とずっと思っていました。単にそれだけのことと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、自分の所属がはっきりしていて日本人としてのアイデンティティーに悩まなくて済む人達が当時は羨ましくてたまりませんでした。今でもそうです(このことを自分の利点にまで高めるにはどうやらまだ至っていないようです)。従って、自分は何人かと聞かれても日本人以外の何者でもないのですが、そこにも完全に所属しきれていないというか、中途半端な存在なような気がするのです。」

「じゃあ、日本にいる時は日本人になりきっていないという気持ちを抱き、また周りからそう言われたりしたけど、いざアメリカに戻ってくると自分は日本人という気持ちが強くなるわけだ。」

「そうです。」

「これは授業でやってきているsystemicな問題の兆候を表していると言えるのではないかな。つまり、『日本人』という所属(faction)に属し切れていない、そこで期待される役割を果たしきれていない自分がいる(role conflict)と認識しているのだと思う。人は自分が属するところに対する無意識の忠誠心があるというか、それから外れてしまうと罪悪感を感じるところがあるから(詳しくはこちらを参照下さい)、日本人を代表したいんだけど果たして自分が代表していいのか、そういうジレンマがあるのだと思う。だから『そんな自分が彼らにもっと授業で発言するよう働きかけてもいいものか』と思うのかもしれない。何も自分個人としての問題として捉える必要はないんだよ。自分に与えられた役割が抱える問題なのだから、それは君個人のせいではない。大事なのはそれらの問題を分析し見極めることなんだ。今言っていることはまだ完全にわかっていないと思うけど。」

「たぶん20%くらいしか理解していないと思います。」

「今週のテーマはBoundary and Partnershipだから、自分のrole conflictについて授業で話してみたらいいんじゃないかな。他の日本人学生があまり発言しないということに関しては、『発言すること=リーダーシップを学ぶ機会』と考えて、その機会をもっと利用しようよ、という感じで話してみればいいのではないかな。」

「ありがとうございます。おっしゃったことおよび自分の中で抱えているものを消化するには時間がかかりますし、どこまで授業で発言できるレベルにまで言語化できるかどうかは何ともいえませんが、トライしてみます。」

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「自分に与えられた役割が抱える問題なのだから、それは君個人のせいではない」という一言に、肩の荷が下りたような気がしました。

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                 イモムシさんひとりぼっちだと何かかわいそうなので最近はつがいにしてます
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by coast_starlight | 2006-11-29 14:26 | 授業のはなし