2007年 03月 18日 ( 1 )

<日々の出来事> ドビルパン首相に釘付けにされる

金曜日、フランスのドビルパン首相の講演がケネディスクールでありました。このような各界の著名人を招いての講演会はフォーラムと呼ばれるのですが、このフォーラムとは普段我々がお昼ゴハンを食べている場所を指します。日中はテーブルとイスが置いてあって何のことはない普通の学生食堂のような感じの場所が、講演会の始まる数時間前からテーブルとイスの片付けが始まり講演1時間前くらいには講演会会場に様変わりしています。講演会の開催は不定期なのですが、一週間ほど何もないこともあれば毎日のように行われることもあり、頻繁に行われるときは毎回テーブルとイスを出し入れするスタッフは大変だなーといつもながら思わされます。政治家がハーバード大学で講演を行ったという報道を見たら、大抵はケネディスクールのこの食堂で行われているのだと思ってよいです。

a0079741_11224280.jpgそれはともかく今回はこれほどの大物が来るということで講演開始45分前にフォーラムに着いたのですが、これほど前でもかなり座席は埋まっており、辛うじて1階の後ろのほうの席を確保することができました。講演者によっては良い席は関係者で押さえられていることが多く、そもそも一般聴衆が座れる席があまり確保されていないことが多いです。今回もハーバード関係者のみが座れる席(学生証を見せれば座れる)が何席か空いていたのでそこに陣取りました。今回も良い席はVIPや大学/報道関係者・フランス人学生団体などが押さえていました。今回スタンリー・ホフマン教授(ジョセフ・ナイ教授の師匠にあたる、国際政治の分野ではとーっても偉いお方)の招聘でハーバード大学に来られたドビルパン首相が会場に現れると、我々聴衆は割れんばかりの拍手で迎えました。

今回の講演は "The U.S. and Europe: How Can We Face the Changing World Order?" というテーマで、世界秩序に欠けている現状に対する危機感やアメリカとヨーロッパがお互いに対して尊敬の念を払うことの重要性を説いた後、イラク戦争はアメリカのイメージを傷つけており、2008年の大統領選までに兵力を引き揚げるべきだ、これからの外交は良心・想像力・連帯(goodwill, imagination, and solidarity)で行っていかなければならない…などといった内容を話されていました。


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フォーラムの醍醐味の一つは質問タイムでもあります。たいていの場合講演会終了後20~30分ほど質問タイムが設けられており、会場4箇所に設置されたマイクの前に立てば誰でも質問することができます。ただし時間に限りがあるので早く行かないと自分の順番が回ってくる前に講演会が終わってしまいます。だいたい一つの質問と回答で5分くらいかかるので(回答が長いことが多い)、今回は30分で6人くらい、マイクが4箇所にあることを考えると一番前か二番目につけないと質問ができない可能性が高いです。ドビルパン首相くらいの大物になるとマイクの近くに席を陣取り、講演会が終わったらすかさずマイクの前に移動しないとダメだな…と読んでいたのですがその通りでした。私は二番目に立つことができ「これはいける」と確信しました。

私はフランスが死刑制度廃止に対し、実際に廃止している国の中でも特に国際社会に対してその重要性をアピールしているイメージを抱いているのですが、そのことについてずっと誰かに聞いてみたいと思っていました。自分がフランス語を勉強するなどしてフランスについて理解を試みる中で、フランスのメンタリティを知ろうとするとこの問題は避けて通れないだろうということを経験を通じて感じていたからです。質問内容を講演開始前の待ち時間に下書きし、何度か推敲した甲斐がありました。質問内容を紙に書いてそれを棒読みするのはアイコンタクトの面ではあまり好ましくありませんが、こういう場では緊張して何を言っているのかがわからなくなるほうがもっと良くないので、私は紙に書くようにしています。

「1981年に死刑制度を廃止して以来、フランスは死刑廃止を国際社会に対して強くアピールしてきており、また最近その傾向が強いような印象を受けます。フランスが国として死刑廃止を訴え続ける基本的思想は何なのですか?特に死刑制度が存在する国-----私はアメリカではなく日本の出身ですが-----から来たものとしてお答えに非常に興味があります。私自身は死刑そのものが問題を解決するとは思っていませんが、どちらかのスタンスをとるまでにはまだ至っていません。根底のメンタリティに関して私が理解できるよう説明していただけませんか?」

a0079741_11232240.jpgこの質問にはドビルパン首相も一瞬「うっ」ときたらしく、数秒の沈黙のあと「なかなか難しい質問だね」と前置きしながらも、先日のフランス憲法改正で死刑制度廃止を明記しフランスとして死刑制度を永遠に廃止することを決意した点や、どれだけの罪を犯した人間に対しても国家が人の命を奪うことはできない・国の命令によって人を殺さなければならない死刑執行人の人権の問題がある・民主主義の重要性を訴え続ける立場として野蛮で非人道的な死刑制度を廃止することはその根幹となるもので重要である…といった多くの死刑廃止論者が主張する内容を一通りカバーした回答をされました。特に民主主義の件になると話にも力が入り会場からは拍手が沸き起こりました。

これらの内容自体は私が予想していたものだったのですが、私が驚いたのはドビルパン首相が回答されている間ずっと私の目を見つづけていたことです。普通適度に他の聴衆にも視線を配りながら話す人が多いような気がするのですがドビルパン首相の場合は違いました。ただでさえドビルパン首相に直接質問をする機会を得て緊張しまくっていたのに、私をじっと同じ視線で見つめ続けながら話し続けるドビルパン首相にもう両脚はガクガク。ダメだ、体が動かない…ただ立っているだけで苦労しました。こんな経験は初めてです…一生の中で忘れられない瞬間の一つとなるでしょう。写真はマイクの近くにいた同級生に撮ってもらったものです。この視線で5分間ずっと話され続けた私の心境を少しでもご想像いただけるでしょうか?また、その姿勢からかなりの本気度が伝わってきました。もっとビックリしたのは質疑応答も終了して閉場となった後あるマスコミの人に声をかけられ、「ドビルパン首相の回答は納得のいくものだったか?」という質問を受けたことです。ここに書いたことと同じことを答えました。

ドビルパン首相は講演会終了後もしばらくその場に留まりサインや写真撮影に応じていました。視線で釘付けにされた直後ということもあるけど、間近でみると本当にかっこいい…。講演が終わるとすぐに退場する講演者が多い中で(大物となるとなおさら)、これはかなり珍しいことではないかと思いました。私もすかさずサインもらいましたよ。手元にあったノートに書いてもらったサインを見ながら「フランス語の勉強がんばろっと」と思いました。
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by coast_starlight | 2007-03-18 11:27 | 日々の出来事